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日本人アスリート、飛躍の背景にあるもの
WBCやオリンピックなど世界を舞台に、日本人アスリートが目覚ましい活躍をみせています。
アスリート支援事業を手がけるBASラボでも、様々な企業やチームと交流するなかでよく話題にのぼっています。
今回は、スポーツ心理学を専門とする磯貝浩久教授(BASラボ代表理事)に、日本人アスリートの活躍について
どう見ているか、その背景などについて聞きました。
日本人アスリートの躍進
BASラボ代表理事の磯貝です。
2021年の東京オリンピック、2023年のワールドベースボールクラシック(WBC)など、
世界を舞台とした日本人アスリートの活躍を観戦できることが本当に多くなりました。
研究者である前に、一人のスポーツファンとしてとても嬉しいですね。
日本人アスリートの活躍を耳にしない日はないといってもよいくらいで、昔と比べてずいぶんと
変わったなぁと感慨深くご覧になっている方も多いのではないでしょうか。
大谷翔平選手はもとより、メジャーリーグで日本人が活躍することは全く珍しくなくなりました。
サッカーではもう覚えきれないほどの選手が海外の有名チームに移籍し活躍しています。
バスケットボールでは八村塁選手(NBA)、バレーボールでは石川祐希選手/柳田将洋選手をはじめ何人もの
選手が海外で戦っています。
ほぼ全てといってよいほどあらゆる種目で、目覚ましい活躍ぶりです。
卓球もオリンピックでしっかりメダルが獲れるレベルにあり1)バドミントンもメダルは残念でしたが
高い競技レベルにあります。
1)リンク 東京オリンピック結果卓球https://olympics.com/ja/olympic-games/tokyo-2020/results/table-tennis
日本人活躍の背景は―
いままでにないこの日本人アスリートの凄さ・躍進はどこから来るのでしょうか?といろいろな方から聞かれます。
まずこの背景には「情報量」と「交流」が挙げられると思います。
我々の世代はペレ2)の映像を見て育ちました。子どもの頃、近所の体育館に集まってやっとペレの白黒映像を
見ることができて、「サッカーの神様」に憧れたものです。
学生時代、東京に一時住んでいたときは「三菱ダイヤモンドサッカー」3)をようやくテレビで見られる!と嬉しかったですね。遥か海の向こう、ヨーロッパサッカーの貴重な映像をテレビにかじりつくように見ました。この話は私がよく引き合いに出すエピソードなのですが、当時はそれくらい海外サッカーを見る機会がなかったのです。
それがいまや、テレビでもネット/スマホでも見られる。スポーツチャンネルも充実しており、日常的に見ることができる情報量が格段に違うと思います。
2)「サッカーの神様」「20世紀最高のサッカー選手」と称されるブラジル代表エース。
愛称ペレ/本名エドソン・アランテス・ド・ナシメント。プロ選手実働22年(1956⁻1977年)W杯優勝経験3回。2022年12月逝去。
ペレ引退後、ブラジルは24年間W杯優勝から遠ざかることとなった。
3)1968⁻1988年にテレビ東京で放送(毎週土曜18時~30分間)。
当時海外サッカーを見られる機会がほとんどなかった日本で伝説のサッカー情報番組。金子勝彦アナウンサーの「サッカーを愛する皆さん、ご機嫌いかがでしょうか」はあまりにも有名。
指導者の変化
アスリート(選手)飛躍の要因として、いま指導法、指導者が変わってきたことも大きいですね。
指導者が世界を見ています。
変化の一番は、指導者が「経験則に基づいた指導からの脱却」してきている事が挙げられます。
“昔は自分がこう育ってきたからこう教える”という指導、そういう指導者が減ってきました。
どんどん良い知識、最新の科学、より良い指導法を取り入れていっています。これが一番大きい。
世界のトップがこう指導している。トップアスリートがこういう練習を取り入れている。
指導やトレーニングにはメンタルトレーニングも大事だとしっかり認識されつつあり、
またビジョントレーニングも同様です。
BASラボで開発や監修を担当している「メントレアプリ」や「NeuroTracker」に関心を寄せる指導者は
皆さんこのあたりの意識がとても高く、自身の経験則とは違うステージにいますね。
その辺の変化がとても大きい。
関連リンク メントレアプリユーザーズVOICE監督編
関連リンク NeuroTracker専用サイト
アスリートの変化
多くの方がお気づきのとおり、昔に比べてアスリート達にいわゆる“悲壮感”が無いですね。
かつては、“日の丸を背負う” “日本を背負って戦う”という重いプレッシャーを自らかけてしまう事も多かった。
いまのアスリート達は、多くの種目でふだんから世界を相手に戦う機会を得ています。
オリンピックのような大舞台も、日常的に経験している世界的大会の一つ、という認識ではないでしょうか。
東京オリンピック(2021年)のスケートボード競技で「13歳 真夏の大冒険」が名言4)となりましたが、
みんなで楽しもうという感覚の選手が多くなっています。
伝統的なスポーツでもこの傾向がみられており、日本におけるスポーツとの関わり方が変わってきたといえるでしょう。勝たなければいけないという悲壮感はなく、選手がとてもリラックスして競技にのぞんでいますよね。
4) 2021年7月東京オリンピック スケートボード・ストリートで西矢椛選手の競技中、実況/倉田大誠アナウンサーが発した名言。
「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされ注目を浴びた。
キーワードでお伝えすると
アビスパ福岡など我々が関わっているプロスポーツ、学生スポーツ選手たちと接している実感として、
もう少しだけですが踏み込んで、キーワードでお伝えしたいと思います。
関連記事)【ニューロトラッカー×現役Jリーガー パイロット研究】
▷セルフコントロール
自分で自分の心を整える、統制する(セルフコントロール)スキル。
この獲得がメンタルトレーニングの目的の一つであるわけですが、しっかり出来ている選手が増えています。
言われてからする世界から脱却して、自らいろんなことを学ぶ感覚がみられます。
▷セルフモニタリングself-monitoring
自身の感情や行動などを自ら客観的に捉え、社会的に適切かどうか観察して自分の行動をとろうとすることを
指します。1970年代にマーク・スナイダー5)が導入した概念で、スポーツだけでなく医療/教育など
幅広い分野で研究されています。練習日誌(ノート)やメントレアプリで行う記録は、振り返りを行うことで
自分を客観的に捉えるセルフモニタリング技法のひとつといえます。
セルフモニタリングがきちんとできている選手が多く感心しています。
5)アメリカの社会心理学者。25項目のセルフモニタリングスケール(のち18項目)の創始者、
ミネソタ大学心理学教授。https://cla.umn.edu/about/directory/profile/msnyder
▷自己効力感セルフ・エフィカシー
Self-Efficacy。とても分かりやすく表現すると「自信」。
自信の強さがスポーツにおける成功に大きく影響していることはすでに多くの研究から明らかにされています。
自己効力感とは、「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること」
です。自分にはやれる!と自分で認識していること、ということですね。
アルバート・バンデューラ6)が提唱した概念で、教育学や社会学などにも広く大きな影響を与えました。
どこかで聞いたことのある方も多いと思います、近年特によく使われるキーワードですね。
自己効力感の高い人ほど運動パフォーマンスが向上することが数多くの研究で示されています7)。
この自己効力感がしっかりと保てている選手が多いなと感じています。
6)カナダ人心理学者。スタンフォード大学心理学教授、アメリカ心理学会会長。
史上最も影響力のある心理学者の一人と評価されている。
7)磯貝浩久,徳永幹雄,橋本公雄,高柳茂美:運動パフォーマンスに及ぼす自己評価と自己効力感の影響.健康科学,13:9-13,1998.
▷アスリートセンタード
選手が真ん中にいて、指導者/保護者/審判/観戦者など周りで関わる全ての人々が高まる
ポジティブな関係という概念です。
日本スポーツ協会(JSPO)が提唱し、いまスポーツ界全体のキーワードとなっています。
(参照)JSPOはなぜ、アスリートセンタードを提唱するのか-JSPOホームページより
以前は「アスリートファースト、ウイニングセカンド」という言葉もありましたが、国際的にほとんど使われて
おらず、また「誰がファーストでもない」「コーチングファースト、ウイニングファーストになっていなかったか」
など様々な反省や議論を経て、アスリートセンタードが提唱されています。
指導者やその他の方々がそのあたりをしっかり認識できるようになってきています。
日本人アスリート飛躍の背景には、スポーツ心理学で積み重ねられた研究成果が現場にフィードバックされ
実践された要素が数多くみられます。
スポーツ心理学者の一人として、またスポーツを愛するファンの一人としてとても喜ばしく思っています。